また一人、名投手が。落合ドラゴンズのエース、吉見一起引退。

セ・パ両リーグのペナントレース優勝チームが決まり、パ・リーグのクライマックスシリーズの勝者がセ・リーグ覇者の巨人と対決する日本シリーズはコロナ仕様の日程ゆえに異例の11月21日開幕となる。そんな中、また一人の名投手が引退すると言うニュースが飛び込んで来た。2004年からの落合政権下において、その後半での絶対的エース吉見一起投手(36歳)が今季限りでの引退を決め、今日11月5日に引退記者会見を行った。

吉見引退会見

そして、明日11月6日の対東京ヤクルト戦に先発、自身で引退登板を飾る事となった。

今日11月5日の対DeNA戦で先発大野雄大が7回を無失点、続いた又吉、祖父江もゼロ封としてチーム7年ぶりのAクラスを確定させた上で吉見の引退登板をお膳立てすると言う何とも心憎い演出。こんな所にも、チーム投手陣から吉見への敬意を感じる。

辛口の落合監督(当時)をも唸らせる、その投球術

2004年に監督に就任し即リーグ優勝。以降、最終年の2011年までの8年間に渡り、その全てのシーズンでAクラスを確保し、リーグ優勝が4回(日本一は一回)と言う落合監督時代の2005年のドラフト希望入団枠(当時)でトヨタ自動車から入団したのが吉見一起だ。

ルーキーイヤーの2006年、その翌年の2007年は真価発揮とはならなかったものの、当時のエース川上憲伸が翌年からのメジャー挑戦を控えた2008年に山本昌(引退)、チエン(現ロッテ)、中田賢一(現阪神)らと共にローテーションを形成し10勝を挙げて頭角を現した。

そして、翌2009年には16勝を挙げて自身初のタイトル最多勝を獲得。2009年(2位)、2010年(1位)、2011年(1位)となる落合ドラゴンズの新たなエースとしてマウンドに立ち続けた。

落合政権最終年の2011年は、東日本大震災の影響で開幕が3週間ほど遅れたり、原発停止に伴う電力供給の不安からナイターでの開催が自粛されたり(4月中。東京、東北電力管内。)と、まるで今年2020年のコロナの影響を想起させる様な非常時での開幕となった。

そんな中、吉見は自身キャリアハイとなる18勝(3敗)を挙げて2009年に続く二度目の(そして最後の)最多勝を獲得。更にはクライマックスシリーズにも中三日での登板を含むシリーズ2先発2勝を挙げ、迎えたソフトバンクとの日本シリーズでも第2戦、第6戦に先発、何れも1失点で強打ソフトバンク打線を封じ込めた。

そんな投球ぶりを、辛口で鳴らす落合監督(当時)が手放しで絶賛していたものだ。

歴代1,2位を争う制球力

その吉見の投球スタイルは、フォーシームの球速こそ140Km 前後だが、それを補って余り有る制球力が身上だ。

打者の腰より上のストライクゾーンには「絶対」にボールが来ず、それも全ての球種に関してそうだった。

フィニッシュに用いる事の多かったフォークの制球が特に見事で、右左の打者に応じ微妙に変化を変えながら低めストライク一杯の軌道からショートバウンドになるかならないかくらいの落差で落とすその球に、追い込まれた打者のバットがことごとく空を切っていた。

更に秀逸なのは、これも打者の左右関係なく外角低め一杯に制球されたフォーシームとスライダーだ。これらをカウントが若い段階に投げて早く打者を追い込み、最後にフォークで仕留めるその投球術を、近年球速ばかり追い掛ける傾向の世の中に、「これぞ投球術!」と見直す参考にして貰いたいと切に思う。

ちなみに、18勝を挙げた2011年だが、190回を投げて与四死球はわずか23個。与四死球率(9回を完投して幾つ四死球を出すのかを表す数値)が、なんと1.089個なのは200回近くを投げた先発投手としては驚異的と言う他無い。正に「精密機械」と言われるゆえんである。

しかし、その翌年2012年に13勝を挙げたのを最後に、プロ入り前から悩ませていた肘の怪我が悪化して遂には2013年6月にトミー・ジョン手術を受けるまでとなり、長く苦しいリハビリ生活へ入る事となった。

2015年以降、球数100球制限、登録即登板、登板後即抹消で中10日を空けるなどの「工夫」をして来たものの、2013年から今年2020年までの8年間の通算勝利数が20勝と、かつてを思えば少々寂しい成績だったことは否めない。

投球フォームを改造してまで臨んだ現役ラストイヤー、2020年

今年、巨人の大エースである菅野が「腕から始動する」新フォームで臨み大きな話題となった(そして、開幕13連勝と言う無双ぶりを見せてくれた)。何と、同じフォームに吉見も挑戦していたのだ。

残念ながら、無観客で行われた6月27日ナゴヤドームでの広島戦で5回を投げて挙げた1勝が現役勝ち星の最後となったが、二軍ではチーム最多の5勝と防御率も2.77を挙げ、新フォームの手応えも有った様に見受けられる。

6月27日対広島戦。現役最後の勝ち星を挙げた後のヒーローインタビュー

しかしながら、若手が育って来た事と、コーチへの転身を視野に入れて、早めの引退を決意した様だ。その選択も、自身の投球スタイルと同様に良くコントロールされたものだと思う。

繰り返す様だが、近年、大向こう受けをするスピードガン表示競争の様相を呈している感の有る野球界に、ぜひ吉見の様な投球術を見せる投手を、コーチとして、その手で育てて欲しいと思う。

投稿者: スタジオスモーキー カルロス

2013年12月から開始したポッドキャスト番組「スタジオスモーキー」のブログです。 音声では伝えきれないコンテンツを公開して行きます。

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