コロナウイルスの影響により変則日程で行われている今年のプロ野球。セリーグは巨人が断トツの安定感を見せ首位を独走、ほぼリーグ優勝を決めた感が強い。片や、パリーグはソフトバンクの失速に加え、ロッテが故障離脱者を大勢抱えながら、積極的な補強策と井口監督&吉井投手コーチの「元メジャーコンビ」による采配が冴えて優勝を狙う位置に付けており、優勝争いから目が離せない状況だ。
今季は機能しなかった栗山采配
他球団においては、石井GMが古巣西武ルートや、巨人との間で積極的な補強を図る楽天が前半戦は健闘したものの、ここに来て息切れを見せ3位で勝率5割を行ったり来たり。
リーグ3連覇を狙った西武はメジャーへ移籍した秋山の抜けた穴と、自慢の山賊打線の波が激しく、相変わらずの弱体投手陣を援護出来ず早い段階から脱落。
オリックスに至っては、球宴5回出場が示す様に真の大物としてメジャーから獲得したアダム・ジョーンズが全くの期待外れ。リーグ屈指の山岡&山本の2枚看板を活かしきれず開幕から低迷。お得意の監督途中解任劇を経て、中嶋監督代行になってからは自身が育てた若手を二軍から引き上げ一定の成績を見せているものの単独最下位を回避出来れば、と言う状況。
そして、今回のお題になる金子弌大が所属する日本ハムは、中田、西川、太田、近藤などの打線が元気ではあるが、昨年の怪我から復帰した上沢が安定した投球を見せているものの、有原が案外。新外国人のバンヘーゲンは調子の波が激しく、連戦が続く今季に必要な安定的なローテーションを組める4人目以降の先発投手が見当たらず、更に秋吉の不調から抑えにセーブ記録の無かった宮西が廻る緊急事態と、今季もそのやり繰りに頭を悩ますシーズンとなっており、何とか3位Aクラスを狙える位置付けだ。
その弱い先発陣を補完すべく栗山監督は昨シーズンから積極的に「ショートスターター」を取り入れている。本来、最低5回は投げて欲しい先発投手に敢えて中継ぎ陣を当てて1-2回づつ投げさせて1試合を6-7人の投手で廻して行く試合を設けている。その主要メンバーの一員として動員されているのは左腕・加藤と、昨年オリックスから移籍した金子だ。
24勝負けなしの田中将大と沢村賞を争った2013年の金子千尋(当時)
今も記憶に新しい、24勝0敗の勝率10割と言う空前絶後の成績で楽天を初の(そして今のところ唯一の)リーグ優勝に導き、その勢いのままに日本シリーズで巨人を制して、翌2014年からニューヨークヤンキースに移籍した田中将大。この陰に隠れる形になったが、この年の金子千尋(当時)の成績もまた素晴らしいものだった。
参考までに両者の2013年の成績をあげておく。
金子千尋 | 田中将大 | |
1983年11月8日(当時30歳) | 生年月日 | 1988年11月1日(当時25歳) |
29試合15勝8敗 | 登板+勝敗 | 28試合24勝0敗1セーブ |
223回1/3 | 投球回数 | 212回 |
2.01 | 防御率 | 1.27 |
10 | 完投数 | 8 |
200 | 奪三振数 | 183 |
0.652 | 勝率 | 1.000 |
この年のオリックスのリーグ順位は5位で全体の勝利数は66勝。投手部門で見てみると規定投球回数に達したのは金子と西勇輝(9勝8敗)のみで、チーム全体での完投数は両者による13試合。その内訳は金子10試合、西3試合と言う状態だった。
こんなチーム状態でありながら、今季2020年シーズンの菅野以上の活躍を見せた田中将大よりも投球回数、奪三振数、完投数で上回った5歳年長である金子千尋の2013年シーズンは沢村賞の選考基準を全てクリアした上で、更に同じく選考基準をクリアした田中将大よりも1つ多く選考基準項目(=全項目)を満たしたが沢村賞は獲れなかった。だが翌2014年シーズンに16勝(5敗)をあげて、見事沢村賞をベストナイン、ゴールデングラブ賞と共に獲得したのはさすがと言う他無い。
ちなみに、この2014年シーズンのオリックスの順位は2位。これは、過去10年間で唯一のAクラス入りでもあった。
2020年の金子弌大
北海道日本ハム移籍2年目となった今季。コロナ禍により変則的なシーズンとなっている中、チーム状態と歩を合わせた様に金子の成績も振るわない。9月30日現在の成績を昨シーズンと比較してみる。
2020年 | 2019年 | |
25 | 登板試合数 | 26 |
1勝3敗 | 勝敗 | 8勝7敗2ホールド |
6.37 | 防御率 | 3.04 |
35回1/3 | 投球回数 | 109回2/3 |
4 | 先発試合数 | 19 |
21 | 中継ぎ試合数 | 7 |
昨季、移籍した当時に栗山流オープナー(ショートスターター)に関して金子自身は
「希望ではないですけど、先発にこだわりはないっていうことを分かっていただけたら」と移籍先でのポジションについて、新天地が決まる前から発言していた。念頭にあったのは「オープナー」だ。昨シーズンにメジャーで話題となった投手起用法。本来は救援である投手がまずは先発し、初回の上位打線を抑えて試合の流れを引き寄せる作戦だ。「先発にこだわりはありませんし、オープナーの先駆けの存在になれたら」。通算120勝右腕は本気だ。
週刊ベースボールオンラインより
と語っている。更には、3連戦を3連投する1-2回限定のオープナーで登板しても良い、と言う様な発言も有った様に記憶している。言わば、批判も多い「栗山流オープナー」戦術の良き理解者と言えよう。
昨年は序盤こそ先発と中継ぎを繰り返したものの中盤からは先発に固定され、15勝あげて最多勝に輝いた有原に次ぐ8勝と投球回数を残して、その実力を見せつけた。
しかし、今季は中継ぎや試合によっては敗戦処理的な登板も有り、数少ない先発機会でも投げて2回までが大半で、最長投球回数は4回1/3と言う状況である。
OBが務める「プロ野球ニュース」の解説者たちは、勝負が決した場面の登板や、打ち込まれ降板する金子を観て異口同音に
「こんな場面で(金子は)出て来る投手ではないんですけど」
「典型的な先発型の金子は」
と言ったコメントを出し、ある種の同情を見せる事が多い。更には、メディアに辛辣な金子評を見つける事がほとんど無い。
一般社会に例えると、転職先で苦労をしつつ冷や飯を食わされている(かの様に見える)かつての敏腕営業部長に対して、取引先や業界メディアから深い同情が寄せられている様な感じだろうか。
一般社会にも通じる、己の活かし方
北海道日本ハム移籍時の金子弌大の通算勝利数は120勝。当時35歳と言う年齢を考えると名球会入り(もはやこれも有難みが薄れているが)の基準である200勝到達はなかなか難しいものの、選手寿命が延びている昨今と、7種類以上と言われる多彩な変化球を抜群の制球力で操る投球スタイルを考えると、先発ローテーションを守り節目の150勝は充分に目指せるはずと誰もが考えた事だろう。
しかし、移籍後の金子弌大はその道を主張せずに「栗山流オープナー」の理解者として残りの投手人生を生きる事を選択した様だ。
一般社会に当てはめて考えると、転職後の職場で自己主張はあえて抑えて、新しいモノ好きの経営者の試みに積極的に応じそれを新たな挑戦とする、と言う感じだろうか。
しかし、それが上手く機能すれば組織としても良いのだが、チームの勝利を目的にするのであれば、自分の強みを活かせるポジションを主張しても良いのではないかと思う。
栗山監督が2020年限りで勇退して、東京五輪日本代表チームを率いた日本ハムOBの稲葉氏が新監督になる(と予測する)2021年シーズンこそは是非先発に固定して欲しいと思っていたのだが、五輪自体が一年延期となり、その流れの中、恐らくは栗山監督がもう一年続投する可能性が高い。そうなると、この「栗山流オープナー」は継続となり、同じく金子自体の扱いも変わらないだろう。
しかし、下記の動画にある様に多彩な変化球を武器とする金子弌大は、やはり長い回数を投げてこそその持ち味を発揮出来ると思う。かつての沢村賞投手で平成の大エースと言うに相応しい投手の真の復活を心から期待したい。