コロナ禍の中、120試合制でのペナントとなった2020年のプロ野球。連戦が続くタイトなスケジュールも有り各チームとも例年以上に継投策、いわゆる「勝利の方程式」作りが重要なシーズンになった。規定投球回数に達したのがわずか6人(セ・リーグ)と言う状況の中、セ・リーグでは中継ぎ投手の勲章であるホールド王に3人が輝いた。その中の一人が、プロ7年目中日ドラゴンズの祖父江大輔投手である。
同一チームから2人のホールド王が誕生
ペナントシリーズ前半戦、苦戦した事もあり与田監督の采配が疑問視された時も有った中日ドラゴンズだが、最終的には10完投6完封と大車輪の活躍を見せたエース大野雄大を中心とした先発投手陣に、大野以外が先発した試合には、祖父江大輔、福敬登、ライネル・マルチネスの7,8,9回を担当するブルペン陣に加え、一時の不調を克服し今季主に6回を中心に良い仕事を見せた谷元圭介の「T」を加えた、「大福丸with T」(本来はここに、又吉克樹の「M」も入れたい所だが)が機能し後半戦に躍進を見せ、常勝落合ドラゴンズを継いだ2012年高木守道監督時代以来のAクラス入りを成し遂げた。
特に目を引くのが、30ホールドポイントをそれぞれ挙げて、プロ入り2年目の東京ヤクルト清水昇と共にホールド王を分け有った「大福」の右腕・祖父江大輔と左腕・福敬登の二人であろう。その中でも祖父江大輔の防御率は1.79と、福敬登の防御率3.55、清水昇の防御率3.54とを比較すると抜群の安定感を誇ったシーズンであった事が見て取れる。
鋭い眼光と独特の風貌が印象的
祖父江大輔の投球スタイルは、145㎞前後のフォーシームと縦横のスライダーが中心だ。特に今季目を引いたのが、先ごろ引退をした同チームの吉見一起と似た制球力の高さで有り、特に低めに来る変化球の精度が抜群だった。奪三振率こそ6.28と、中継ぎ&抑えにパワーピッチャー全盛の時代においてさして高くはないものの、とにかくゴロの山を築き好不調の波無くシーズンを乗り切った。
そんな緻密な投球スタイルとは対照的な、マウンドに上がった時に見せる鋭い眼光。更には髭を蓄え、やや長髪気味の髪を帽子から覗かせつつ打者を威圧するその様はまるで野武士を思わせる様な迫力が有った。175㎝と、投手としては小柄な部類に入る祖父江だが、「気持ちでは絶対に負けない」とばかりに見せるその姿は実に投手らしさを感じさせた。
ダルビッシュにより、一躍有名に!?
中日ドラゴンズと言うチームの位置付け、並びにその中でも目立たない中継ぎ、敗戦処理で投げ続けていた祖父江はさほど一般的には知名度が高い選手では無かったのだが、一躍脚光を浴びたのは、昨年2019年のオフに、今や球界随一のYouTuberと言ってよいダルビッシュ有が投稿した一本の動画がきっかけだった。
祖父江を例にとって、地味になりがちな中継ぎや敗戦処理と言った役回りを担う投手への年俸査定に関する自身の意見を述べたものだ。地味な球団の地味な役割を担っている選手の事を、特に深い交流の無い超有名な日本人メジャーリーガーが、膨大な数の登録者を持つ自前のYouTube番組の題材として取り上げつつ、その6年間に渡る実績を現役のプロ野球投手として高く評価したのだから祖父江自身がきっと一番驚いた事だろう。
登板試合数 | 勝ち | 負け | セーブ | ホールド | 防御率 | |
2014年 | 54 | 0 | 3 | 0 | 11 | 3.53 |
2015年 | 33 | 0 | 2 | 1 | 2 | 2.70 |
2016年 | 46 | 0 | 4 | 0 | 12 | 3.14 |
2017年 | 35 | 2 | 2 | 1 | 9 | 2.57 |
2018年 | 51 | 2 | 2 | 0 | 17 | 3.14 |
2019年 | 44 | 3 | 4 | 1 | 3 | 3.11 |
2020年 | 54 | 2 | 0 | 3 | 28 | 1.79 |
計 | 317 | 9 | 17 | 6 | 82 | 2.88 |
2021年シーズンも、地味に輝く!?
年々進む投手分業化。中でも、抑えに繋ぐ7回と8回の役割は、その負担の増加と共に非常に重要だ。それだけに、いわゆる「勤続疲労」を起こしやすいポジジョンでもあるので、各チームこの辺りの補強を進めるだろう。中日では、今季案外だった岡田俊哉や藤島健人辺りが復調してくれば、ブルペン陣がより強固になり「大福」の負担が減るかも知れない。
そんな中、来季34歳になる祖父江は、来季43歳の大ベテラン山井大介、36歳になる谷元圭介に次ぐ年齢となり、投手陣の中核、まとめ役としても期待される所だ。ファン感謝ディーで見せる意外な一面と共に、ブルペン王国の様相を呈して来た中日ドラゴンズでの躍進を期待したい。(出来れば、一度くらいオールスターに出て欲しい…)