(この記事は「ほぼ日刊ほいなめ新聞」に寄稿した文章を加筆修正したものです。)
俺の知り合いに、某山手線駅近くの、いわゆる「中華式マッサージ店」で働く女性がいた。「中華式」と言いながら、働くその彼女はタイ人だ。日本語は全く出来ないが、流暢な英語と、店のボスとのコミュニケーションに大いに役に立つ、これまた流暢な北京語を話す、そんな嬢だった。
出会いは、やっぱり「BeeTalk」
彼女と知り合ったきっかけは、やはり「BeeTalk」だ。先に解説した「Look Around」機能を駆使して、そこに現れたこの彼女(仮に名をY嬢とする)とコンタクトを試み見事成功したのだ。(と言っても、しばらくはメッセージのやりとりのみだが。)
少々の手間は掛かったものの、その縁によりなかなか興味深い話し、つまりは各駅前などに散見出来るマッサージ店で働く外国人女性の実態を知る事が出来た。
このY嬢は、正確な英語に加え、中国語も堪能で、母国語も合わせると3か国語を流ちょうに操れることを考えると、母国ではそれなりの教育水準で生まれ育った可能性が高いと推察出来る。しかしながら色々な事情があって母国を後にし、エージェント経由で東京に来た後数年が経過し、その身分は違法状態になってしまった様だ。
なぜ日本に来たのか?
メッセージでのやり取りをしばらく続けた後、ようやく会う機会を得た。会うまで、散々メッセージのやり取りをしてきたおかげか、顔を合わせたその瞬間から色々と話しを聞き出す事に成功する。
ご多分に漏れず、主に家族の金銭的な事情で、母国でのキャリアを捨てて日本に来た彼女。いくつかある選択肢の中から、日本(東京)を選んだのは、それなりの理由があったらしい。
英語が堪能なのだから、金銭的な面でシンガポールという選択肢も悪くなかったんじゃないの? と尋ねると、
「行ったこともない国だったけど、清潔でルールをきちんと守り、さらには同じ仏教国で王様(日本の場合は天皇)がいる国だから、日本語は分からないけど日本を選んだ。来る前はdream land(夢の国)だと思っていた」
と日本を選んだ理由のひとつを語ってくれた。
この辺りの理由に合点が行くのは、もうしばらく関係が続いた後で、この時点では「ああ、そんなものなのかな」と言う程度ではあった。
しかし現実は…
実際に東京に来てみると、描いていた夢と現実のギャップにずいぶんと苦しんだようだ。一番のギャップは、手の届く距離にきらびやかな世界があるのに、そこにどうすれば行けるのかが分からない事だと言う。
例えばスターバックスで、母国と同じようにお気に入りのカスタムオーダーをしたいだけなのに、言葉の壁(自分は日本語ができず、店員は簡単な英語を理解できない場合もある)のせいで、それすらも果たせずに、慌てて店から逃げるように出てしまい、大変恥ずかしい思いをした話を、代表的な事例として教えてくた。
どちらかと言えば、シャイな性格の彼女なので、そんな風に感じたのかもしれないが、意外と引っ込み思案な面もある俺には、外国での経験として理解できるエピソードではあるので、少なからず同情を禁じ得なかった。
そんな小さな事の積み重ねが、足を一歩踏み出すことを躊躇させ、さらにその繰り返しが一種の疎外感を感じさせてしまうことは容易に理解できる話だ。
あくまでも不法滞在なので、合法的に滞在している外国人が日常的に享受できるサービスなどを得る事は出来ない。これはなかなか辛いことであり、また、些細な事を気にしながら生活をせざるを得ない。
次回は、そんな話しを紹介したい。