(この記事は「ほぼ日刊ほいなめ新聞」に寄稿した文章を加筆修正したものです。)
Y嬢と仲良くなり、色々打ち解けて話が出来る様になってきたある日、話の流れの中で、そっち(=店)に泊まりに行っても良いか?と尋ねる機会が有った。
驚きの習慣
断られるかな、と思いきや、意外にも即答で「OK」だったので、近くに買い物に出掛けたいとのリクエストも有り、指定された午前1時前に店に着く様に車で向かった。
車で10分足らずのドンキで買い物を終え店に戻ると、店の他の子たちを交えて買って来たビールとフルーツカクテルで乾杯。しばしの歓談をする。
その後、各自が部屋に戻るとY嬢はシャワーを浴びに行った。手持ち無沙汰の俺は部屋に敷かれた布団の上で、最終電車が走り去った山手線上で補修工事をしている音を聞きながら「さて…」とその後のプランを考える。
ほどなく部屋に戻って来たY嬢、さもこれが毎夜の習慣、とばかりに自身のネットワークに繋がっていないiPhoneを取り出してwifiに接続しYouTubeを起動させると抑えた音量で「タイ仏教音楽」を再生し始める…
「なるほど、敬虔な仏教徒らしく、この音楽を子守唄代わりにいつも眠るんだな…」と独り言ちていると、そのまま壁に貼り付けている仏陀のイラストに向かい正座をし、お祈りを始めた。しかも、Y嬢の口からは見事な(タイ語での)お経が奏でられている…
毎夜唱えるお経
ひとり布団の上で寝転がっているのも、と思い俺も体を起こし同じように合掌し祈りを唱えるも、祈ることなどさして無いので直ぐに諦めてY嬢の毎夜の習慣が終わるのを待つ。
およそ20分強ほど、熱心なお祈りを捧げたY嬢は閉じた目を開けて、やっと俺の事を見てくれた。
「いつもこんな感じでお祈りをしているの?」
「うん、眠る前には必ずそうしている」
「何をお祈りしているの?」
「家族の事が多いかな。でも何も考えないでwordを唱えている事の方が多いかな。」
「へえ…..」
シュールな情景
その後の事は「ほいなめ新聞」に寄稿した通りである。
電車の音が良く聞こえるこの古ぼけた木造アパート風の建物の中に寝起きし働く、タイから来たマッサージ嬢が、毎夜毎夜就寝前に必ずすると言う神聖なるお祈りの時間。そして、その後の流れの中、暗がりの中で見せられた自身のデルタ地帯に沿う様に彩られた仏陀と思わしきtattooが強烈なコントラストとなり俺の記憶に埋め込まれ、この何とも言えないこのシュールな情景を、最早二度と会う事は無いY嬢と共に今でも思い返す事が有る…