タイ人留学生のお話し2ー経済格差

thaifood

バンコクに妻子を残して、東京へ日本語を学ぶ為に留学して来たB君。酒が好きで、女性はもっと好きと言う典型的な(?)タイ人男性である。いわゆる「良いヤツ」であるB君とは直ぐ仲が良くなり、そうなるとその伝手で彼が持つタイ人コミュニティの中にも入り込んで行く事にもなる。

私鉄沿線某駅のシェアハウス

彼の住まいは23区内私鉄沿線の某駅近くにある、一軒家を改造したシェアハウスだ。

築30年以上と思わしき木造2階建てをリフォームして部屋を小分けし、そこに外国人を住まわせている。ちなみに、そのオーナーは中国人だが、入居しているのは全員タイ人だ。(おそらく、語学学校の紹介であろう。)ここには9名が入居出来る。

備え付けのベッドと、勉強用の机を置くともう部屋には余分なスペースが無い。

タイ人の習慣として、仲間が集まると床に直座りをして食事をしたり酒を飲むのだが、この狭いスペースでも彼らの流儀はそのまま。

度々お邪魔して一緒に食事をする機会が有ったのだが、腰の痛さと狭さに耐えかねてベッドの淵に腰を掛けようものなら「床に座れ!」と言われてしまう始末。「郷に入らば郷に従え」なので、その度に渋々床に腰を下ろしたものだ。

数人のタイ人と共に、手造りのタイ料理をつまみながら安い酒を飲み、片言の日本語と簡単な英語、それでも伝わらない無い場合はgoogle先生の力を借りつつの会話はなかなか楽しいものであった。が、とにかく毎回毎回長い酒になるのには閉口したものだ。

意外とリッチなB君

B君の母親は再婚した日本人男性と日本国内に住んでいる。この男性は会社経営者であり、この義父と仲が良いB君は度々金の無心をしている様で、アルバイトをせずに、安酒とは言え毎晩の様に飲み歩いていた。時々飲みに付き合う時には当然の事ながら俺が支払うのだが、飲みながら話す中でこの義父が彼のスポンサーみたいな存在である事は良く理解出来た。学費や日本での滞在費も、どうやらこの義父が工面していた様だ。

その意味では、B君は非常に恵まれた立場で日本に来ているとも言える。もちろん彼の義父にしてみたら将来的に自分の会社を継がせる為の「投資」として行っているのだろうが、お気楽なB君にはそんな事は全く気にならない様子で、2年と言う語学学校に通える期間を最大限楽しもうと言う魂胆がアリアリだった。

しかし、誰もがB君の様な恵まれた立場で日本に来ている訳ではない。

B君の友人として紹介されたO君は、正に「苦学生」と言ったタイプの人物で、毎日をぎりぎりの状態で送っていた。

激務のアルバイト

法で定められた外国人留学生の労働時間は週28時間である。

東京都の最低賃金は自給1,013円なので、これを当てはめ週給に引き直すと週28,364円、月4週間とすると月給換算で約11万円強となる。

彼らが住むシェアハウスは水道光熱費、wifi費などが全部込みで4.5万円なので生活費に充てられるのは残り6.5万円。仮に借金をして日本に来ていれば、そこから返済も生じる訳で普通に考えると足りないのは理解出来ると思う。

O君は、ホテルの清掃係として学校の授業の合間を縫って働いていた。もちろん、週28時間の上限目一杯だ。このバイト先の良いところは一食賄いが出る事(冷めた弁当らしいが。)で、これは大変助かるのだとO君は言う。

しかし、東京で生活をして行くには家賃を引いた月6.5万程度では到底足りない。となると、現金取っ払いのバイトをするしかなくなる。

そんな時に彼らが頼りにするのは同郷人のネットワークだ。

中国人であれば、その圧倒的な在日人数により、いくらでも頼れるネットワークが存在するが、数的にマイノリティとなる在日タイ人のネットワークは極めて貧弱。そして、そこから得られる一時的な仕事も、質量ともにやはり貧弱なのは自然な事だ。

夜通しでの弁当作り

O君が見つけて来たのは弁当作りのアルバイトだ。

朝6時を締め切りにして、夜通し行う作業だ。そこで作られた弁当は早朝に回収されてそのまま工事現場にへ届けられる。そして、その弁当を朝飯にする大勢の労働者たちもまた出稼ぎに来た外国人だ…

夜通し働いたO君が得る賃金(表に出ない賃金)は現金で1万円になる。O君にとってこれはとても大きな金額だ。細かな出費も含めて、彼の約10日間分の生活費に相当する。

深夜作業になるので、学校に行かなくてはならないO君は授業の時間割を睨みつつ出来るだけこの仕事を入れようとするのだが、せいぜい週2日が限度。学校で定期的に行われる試験期間にはそれすらも叶わない。

同じ国からやって来て、同じ場所に住み、同じ学校に通うB君は、日本語の学習にこそ苦労して居るものの、日本に居る母親(=日本人夫)の支援もあり、差し当たっての金銭に困る事は無く、何だか毎日楽しそうに過ごしている。

対して、O君はいつシェアハウスで見掛けても熱心に勉強をしていて、時々授業で分からなかった事を俺に質問して来たり、何度か一緒に学校の課題をやったりしたのだが、のんきなB君に比べると日本語の習熟度は相当に進んでいた。

そんな勉強熱心なO君にとって何とも理不尽な「事件」が起きてしまう。次回はその話しをしたい。

投稿者: スタジオスモーキー カルロス

2013年12月から開始したポッドキャスト番組「スタジオスモーキー」のブログです。 音声では伝えきれないコンテンツを公開して行きます。

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