バックパッカーレスラー・ディック東郷

dcik togo

7月11日と12日に連戦で行われた新日本プロレス大阪城ホール大会。ここで最もインパクトを残したのは、11日のニュージャパンカップ優勝戦を制し、更には、12日にIWGPヘビー級とインタコーチネンタル選手権試合として王者内藤に挑戦し、新たな二冠王者(NJカップと合わせて三冠)となったEVILであろう。

サプライズは新たなパレハ、ディック東郷の登場!

オカダとのニュージャパンカップ優勝戦でバレットクラブ入りを表明、更には、翌日の内藤との二冠戦では「新たなパレハ」としてディック東郷を呼び寄せたEVIL。新二冠王者誕生と共に、有観客試合再開一発目である大阪城ホール大会2連戦の最大のサプライズと言って良いだろう。

「レスリングマスター」として、数多くのレスラーからその技術に深い敬意を表されているディック東郷だが、そのキャリアは極めて特殊だ。

TAKAみちのくや、ショー・フナキ、獅龍(カズ・ハヤシ)などと共に「海援隊」を名乗りWWEに在籍した事も有れば、短期間、新日本のリングに上がりジュニアタッグ王者だった事も有る。

秋田県出身で、元々ユニバサールでデビューした経緯も有り、みちのくプロレスが「本籍地」と言う感じが有るが、最も興味を引くのが2011年6月に国内引退をした後、約1年に渡り世界を放浪しつつ「セルフ引退ワールドツアー」を敢行した事で、その間の様子を当時頻繁に更新されていたディック東郷の公式ブログ「Backpacking wrestler ディック東郷の『東郷見聞録』」で良く見ていたものだ。

まさに、これぞ古来よりのレスラーの理想!

遠い過去、ではあるが、プロレスを見始めた頃、読んでいた専門誌に有った、とあるレスラーのコメントとして

「レスラーは自由だ。タイツとリングシューズさえあれば、カバンひとつで世界の何処ででも生きていける。レスリングに言葉は要らない。」

と言う記事を読んで深く感動した覚えがある。

若手レスラーが海外遠征に出掛け、己の腕一本で金を稼ぎつつ現地でのメインイベンターに上り詰めて行く様子をレポートした専門誌の記事を読み胸を躍らせたファンも少なくないと思うが、そのはるか上を行くのが、誰のバックアップを得ずに、正に文字通り「カバン(=バックパック)ひとつ」で世界を渡り歩いたディック東郷なのだ。

中南米諸国を中心に転戦

レスラーが遠征に向かう先の国で最も一般的なのは、やはり何といってもアメリカ。更にはメキシコ辺りが思い付く。だが、ディック東郷の「ワールドツアー」は、そんなメジャーな国での事は片手間(?)に、ひたすら自身のネットワークを頼りに、しかも、時にはノーアポ(!)で各国を渡り歩いた様だ。

一番目の遠征地はオーストラリア。ここからイギリスを皮切りに欧州各国をサーキット。時にはアメリカやメキシコで試合をしているが、何と言っても目を引くのは中南米諸国での試合や、その時々のお話しである。

グアテマラ、エクアドル、チリ、ペルーなどを転戦し、2012年9月、敬愛すると言うチエ・ゲバラの最期の地・ボリビアで自身の引退試合を行った。

この辺りの様子はディック東郷の公式ブログ「Backpacking wrestler ディック東郷の『東郷見聞録』」で未だ確認出来るので、コロナ禍で海外に行く事がままならない2020年の今だからこそぜひ読んで欲しいなと思う。プロレスファンのみならず、時間が経過した今でも心が躍るストーリーばかりである。

これが旅の終着点なのか?

その後、引退したディック東郷はベトナムでレスリングスクールを開くなど、前人未到のチャレンジをし続ける。2016年6月に現役復帰を宣言し、同年7月DDTのリングへ上がった後は、古巣みちのくプロレスなどを中心に活躍していたのだが、今回長年の盟友である外道(と邪道)とのコネクションにより新日本に登場する事になった。

外道と邪道との関係は、ユニバーサル時代の事や、ディック東郷が率いた「ファーイーストコネクション」での事が記憶に有るが、三人の関係を最も良く表しているのが、ディック東郷の公式ブログにアップされていたこの記事だろう。

「ワールドツアー」に出発する直前の、3人での会食の様子が記されているのだが、その関係性が良く窺い知れる。

そこから約9年の月日が流れて、3人はバレットクラブのメンバーとして再び合流した。

50歳を過ぎたディック東郷の旅はここで終着点を迎えるのか、それともたまたま降り立った途中下車駅なのか。

巨大な新日本と言う組織の中で、現二冠王者EVILと共にどの様にサバイブして行くのか、同年代として大いに注目したい。

投稿者: スタジオスモーキー カルロス

2013年12月から開始したポッドキャスト番組「スタジオスモーキー」のブログです。 音声では伝えきれないコンテンツを公開して行きます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です